早稲田大学の今年度の入試問題について(2010/9)
先月のメルマガは次のような書き出しでした。
「日本は、本格的な夏が到来です。連日猛暑です。朝早い時間から太陽
はギラギラと気合十分で、こちらも相当気合を入れないと外出する前に
気力が萎えてしまいそうです。」
これはそっくりそのまま今月も使えそうです。9月5日現在まで、秋の気
配がほとんど感じられない関東地方(JOBA洗足池周辺)です。
皆さんの住んでいる地域はどんな様子でしょうか。
さて、9月3日に早稲田大学の帰国生入試が実施されました。慶応義塾大
学も一次試験の発表が行われました。これから上智やICUなど私大が続々
と帰国生入試を実施します。今回は、早稲田大学の今年度の入試問題に
ついて小論文Bを中心に速報でお伝えいたします。
-----------------------------------------------------------------
早稲田大学帰国生入試問題速報(小論文B)
-----------------------------------------------------------------
文系の共通問題をざっと見たところ、例年に比べて大きく変わったとい
う点は見られません。ここ数年の傾向を踏まえて対策していた受験生は、
精神的には余裕を持って試験に臨めたのではないかと思います。
文系の共通問題である小論文Bでは、「社会力」について問われました。
出典は、門脇厚司氏の『社会力を育てる』です。テーマとしては、近代
産業社会の発展とともに増長してきた「利己的人間神話」を問い返し、
人間関係の中にいることが自分自身の喜びにつながるような「社会力」
を育てる必要があるという、まさにタイムリーなものでした。
JOBAの講習会でも、サンデル教授の本を元にして、リバタリアニズムか
らコミュタリアニズムへという時代の潮流については、たびたび議論を
してきました。最近の出版状況から考えても、こういったテーマが今年
の本流となることでしょう。これから受験を控えている生徒は、本文を
読まずとも、書くべき内容が頭に浮かぶほどに、この手のテーマについ
てはよく馴染んでおく必要があると言えます。
さて、設問の方に目を転じましょう。
(一) 筆者は、現代日本社会の抱える問題点として、「貧困層の増大と
弱者の切捨て、ないしは、自己責任を名目に、弱者を社会的に排除しよ
うとする傾向が顕著になっている」ことをあげる。これを解決する手段
として人びとが社会力を共有する関係をもつことを主張する筆者の立場
を、具体的な例を挙げながら説明しなさい。400字以内で記述すること。
早稲田の共通問題小論文の設問(一)では、例年、要約問題が課されま
す。今年も筆者の主張を読み取らせている点は同じですが、これまでと
傾向が異なるのは、「具体的な例を挙げながら説明」せよとしている点
です。多少とまどった受験生もいたかもしれませんが、文章内容が易し
い分、これくらいのハードルがないと、ただ本文の引き写しに終始する
ような要約になってしまい、点数差がつかないところです。そういう意
味では、この条件によって、ほどよいハードルの高さになっており、こ
こで海外での体験を書くにせよ、最近の時事問題から題材を拾ってくる
にせよ、問われている内容にいかに適合した具体例を見出すかが鍵とな
ったはずです。
設問(二)の設問文は長いので、ポイントのみ記します。
筆者は、近代公教育制度が、教科の知識を一律・一斉に教えてきたこと
を、産業社会の維持発展のための再生産システムとして批判している。
一方、OECDは、経済発展を左右する最も重要な要因の一つとして教育を
とらえ、「学習到達度調査」を開始した。これは、学んだ知識や技能を
様々な問題を解決するために活用し、社会をよくするために応用できる
資質や能力を調査するものであると言われている。OECDの発想と、筆者
の「社会力」との関係について400字以内で論ぜよ。
設問(二)の方は、実は文章なしでも解答することができます。字数が4
00字と、それほど多く書けるわけではないので、OECDの「学習到達度調
査」で求められている学力と、近代産業社会で求められている能力の違
いに言及しながら、「社会力」を育てるための教育、すなわち筆者が言
うところの「人間の利他的本能を呼び覚まし強化すること」につなげて
いけば、とりあえず解答は出来上がります。
-----------------------------------------------------------------
受験に向けて何を準備するか
-----------------------------------------------------------------
今回の早稲田の小論文課題に見られるように、「学力観」の物差しを変
えていかないと日本はますます「ガラパゴス化」していくばかりです。
このメルマガを読んでいる皆さんは、海外に現在住んでいるか、もし
くはこれまでに海外で暮らしたことのある人だと思います。皆さんのよ
うな経験をしている人に帰国生用の受験制度があることはある意味でラ
ッキーなことです。
「ある意味で」というのは、「議論や対話を中心とした授業が、受験
対策にもなるという意味において」です。ふだん外国の学校で学んでい
る海外生は、プロジェクト型学習に馴染んでおり、正解が一つではない
ということを当然のこととして感じています。それに対して、国内の中
高生の多くは、残念ながらこういう学習体験をしていません。日本の教
師の問題か、クラス人数の問題か、受験制度の問題か、まあそれらの複
合要因と言ってよいでしょうが、効率よく一つの正解に至ることが求め
られているため、多くの生徒は、知らず知らずのうちにそのような学習
態度を身につけます。つまり、「受動的に教わる」ことを身につけるわ
けです。コツコツと知識を習得し、正解が一つの入学試験で良い点を取
ることが当面の目標となります。しかし、その後社会で求められている
ことは、必ずしも大学受験までに求められていることとは同じ方向性で
はないので、戸惑ったり迷ったりしながら3年で会社を辞めてしまったり
します。
もちろん、ここで日本がダメ、欧米がすべてよいという単純な議論を
しようというのではありません。帰国生の受験は「ラッキーである」と
強調したいのです。
だからといって私は、「帰国生だから英文法なんて出来なくてもいい
よ、とか、日本史の知識はなくてもいいよ」なんて言う気もありません。
こういった知識も大切で、意識の高い帰国生は、自分に欠落していると
思われるものはせっせと陰で勉強しているものです。
しかしながら、海外で培ったアドバンテージ、すなわち議論したり質
問したりする「教室でのサバイバル力」(今勝手に命名しました。実際、
欧米型の学校ではparticipationは重要な評価の一つですし、participat
ionは、単にそこに「いる」こととは意味が異なります)は、今後の社会
を担っていく上で、とても大切な能力です。
地球規模の課題が山積しているこれからの国際社会を生き抜くためには、
日本社会への適応力だけではいずれ壁に突き当たります。対話する能力、
議論をしながら柔軟に意見のすり合わせができる能力などが重視されて
くることでしょう。単に外国語ができるというレベルの話ではありませ
ん。
今回の早稲田の入試問題を見て、改めて帰国受験の勉強の意義に思い
至りました。日本型の勉強に無理に合わせるのではなく、高校から大学
に向かう時に必然的に直面する「考える」という行為にどれだけ真剣に
立ち向かうかが問われているわけです。
今回は、小論文Bを中心にお話しましたが、英語や現代文についてもい
ずれご報告をしたいと考えています。
それではまた来月。






